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熊本地方裁判所 昭和58年(ワ)628号 判決 1984年11月30日

原告

右代表者法務大臣

住栄作

右指定代理人

堀江憲二

外五名

破産者株式会社豊後屋破産管財人

被告

野口敏夫

主文

被告は、原告に対し、金八六万二三〇〇円及びこれに対する昭和五六年六月二日から同年七月一日まで年7.3パーセントの、同月二日から支払ずみに至るまで年14.6パーセントの各割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  原告

主文同旨。

二  被告

(本案前の答弁)

1 本件訴えを却下する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(本案の答弁)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  本件法人税の課税及び交付要求

(一) 熊本市新町三丁目一二番三〇号株式会社豊後屋(以下破産会社という。)は、海産物の卸売業を営んでいたものであるが、昭和五五年二月二五日、熊本地方裁判所において破産宣告の決定を受け(昭和五五年(フ)第一号)、被告が破産管財人に選任され、以後破産手続がすすめられている。

(二) 被告は、右破産手続として、昭和五五年九月三日破産会社所有の別紙不動産目録記載の各不動産を同目録記載の各価格で売却し、同五六年六月一日熊本西税務署長(以下西税務署長という。)に対し、右各不動産の譲渡のうち土地の譲渡分は租税特別措置法六三条に規定する土地の譲渡等に該当するとして、破産会社に係る昭和五五年四月一日から同五六年三月三一日までの事業年度における法人税につき課税土地譲渡利益金額を五八六万五〇〇〇円、納付すべき税額を八六万二三〇〇円とする清算事業年度予納申告書を提出した。

(三) しかるに、被告は、右申告にかかる法人税八六万二三〇〇円(以下本件法人税という。)をその納付期限である昭和五六年六月一日までに納付しなかつたので、西税務署長は、同月一〇日被告に対し、国税通則法三七条の規定により督促状を発して納付を督促するとともに、同月一七日、国税徴収法八二条の規定により交付要求をした。

(四) これに対し、被告は「熊本地方裁判所に対して本件法人税の弁済許可申請をなしたが、同裁判所は、本件法人税は財団債権に該らないとして弁済を許可しなかつた。」として、未だその支払いをしない。

2  本件法人税の財団債権該当性

(一) 破産宣告後の原因に基づき破産法人に対して課される法人税は、次に述べるとおり、全て財団債権に該当するので、本件法人税は当然財団債権に該当する。

(1) まず一般に承認されている課税のしくみを述べると次のとおりである。

解散した法人は清算に入り、清算を終ることによつて最終的に法人格を失うが、法人税法(以下法という。)は、この清算の場合には、解散による清算所得の金額を課税標準としてこれに対する法人税を課し(五条、九二条)、清算中に生じた各事業年度の所得については法人税を課さない(六条)こととしている。これが原則である。

しかしながら、法は、清算中の各事業年度の所得について、これを解散をしていない法人の所得とみなして予納申告をさせ、納付すべき法人税があるときは、それを予納申告書の提出期限までに納付しなければならないとしている(一〇二条、一〇五条)。そして、これによつて納付すべき法人税は、残余財産が確定したときになされる清算確定申告(一〇四条)の申告書を提出して納付すべき法人税の予納として納付したものとされ(一〇八条)、その予納に控除不足額等があつた場合には当該金額に相当する清算中の予納額を還付する(一一〇条)などして清算をはかるのである。

これが清算法人の納税制度であり、この制度は、法人が解散した場合の清算は相当長期間を要することが通例であること及び解散した法人が再び継続する場合があることなどに対応するためで、合理性を有するものである。

(2) 右の納税制度は、法人が破産によつて解散する場合にもそのまま適用される。

蓋し、法人は、破産で解散したら(商法四〇四条一号、九四条五号)、当然に清算に入るのであり、ただ、積極財産の不足を前提とするという特殊性を有するが故に総債権者の公平な満足をはかるという観点から通常の清算手続によらずに破産手続によることとしているのであつて、破産手続は強制的要素の強い清算手続なのであるからである。

そして、この場合の納税手続が破産財団の管理処分権を有する破産管財人においてなされるべきことも、また当然のことである。

(3) 破産法は、破産者に対する破産宣告後の原因に基づく公租公課について、四七条二号但書において、「破産財団ニ関シテ生シタルモノ」を財団債権とする旨規定している。

この規定は、租税債権等の重要性に着目してその優先弁済をはかるため、これを一般的に財団債権としたものであるが、ただ破産宣告後には破産者に破産財団に属しないいわゆる自由財産が生じるため、破産者に対して生ずる公租公課もその発生原因に応じて破産財団と自由財産とに峻別して負担させるべきであるという理由から、財団債権に該当する公租公課を破産財団に関して生じたるものに限定したものと解されるのであり、最高裁判所もこの点に関して、「国税徴収法または国税徴収の例によつて徴収することのできる請求権で破産宣告後の原因に基づくもののうち、「破産財団ニ関シテ生シタルモノ」に限つて財団債権とした趣旨は、それが破産債権者にとつて共益的な支出であることにあるものと解すべく、従つて、その「破産財団ニ関シテ生シタル」請求権とは、破産財団を構成する各個の財産の所有の事実に基づいて課せられ、あるいはそれら各個の財産のそれぞれからの収益そのものに対して課せられる租税その他破産財団の管理上当然その経費と認められる公租公課のごときを指すものと解するを相当とする。」(最判昭和四三年一〇月八日民集二二巻一〇号二〇九三頁)旨判旨しているところである。

従つて、右判例の指摘する公租公課は全て財団債権に該当するのである。

(4) ところで、法は、破産法人を含む清算法人の清算所得について法人税を納付すべき旨規定しているところ、法人破産の場合にはいわゆる自由財産の生ずる余地はなく、破産法人に対する法人税の基礎となる所得は全て破産財団に帰属するのであるから、これに対して課税される法人税は、全て前記最高裁判例の指摘する破産財団を構成する各個の所有の事実に基づいて課せられ、あるいはそれら各個の財産のそれぞれからの収益そのものに対して課せられる租税その他破産財団の管理上当然その経費と認められる公租公課に該当するものであり、従つて、その支出は全て破産手続遂行のために必要な支出、すなわち、破産債権者にとつて共益的な支出であると言わざるを得ず、結局、このような法人税は全て財団債権に該当するのであり、本件法人税も同様なのである。

前述のように本件の破産裁判所が本件法人税を財団債権でないとした理由は定かではないが、仮にこれが所得税について財団債権に該当しないとした前記最高裁判例の判決理由を踏まえてのものであるならば、それは所得税と法人税の相違の誤解に基づくものと思われる。すなわち、同判決は、「所得税は、例外的に分離課税の認められる特殊な所得は別として、一暦年内における各個人の財産、事業、勤労等による各種の所得を総合一本化した個人の総所得金額について、個人的事由による諸控除を行なつたうえ、これに対応する累進税率の適用によつて総合的な担税力に適合した課税を行なうことを目的とした租税であつて、所得源に応じて課税するようなことは、別段の定めのない限り、所得税法の予定しないところである」こと及び「その課税の対象は、破産者個人について存する前叙の総所得金額という抽象的な金額」であることを理由として所得税の財団債権性を否定したのであつて、この理由は法人税の場合にはあてはまらないからである。

また仮に、法人税の財団債権該当性を否定するならば、破産法人には自由財産の生ずる余地がないため、法人税は奇跡的に破産手続に残余財産が生じない限り徴収ができない不合理を生ずることとなるが、このような不合理を生ずる解釈をすることは許されないと言わねばならない。

(5) 以上の理由から、本件法人税は財団債権と言えるのである。

(二) 仮に百歩譲つて法人税のうち財団債権に該当しないものがあるとしても、本件法人税は以下の理由により財団債権に該当するものである。

本件法人税は租税特別措置法六三条一項一号に該当するものであるが、同法同条に規定された法人の土地譲渡益重課税制度は法人税の税額計算の特例として定められたもので、法人が同条一項各号に該当する行為をした場合には、法九九条等の規定にかかわらず、これによつて計算した法人税の税額に、当該土地の譲渡等に係る譲渡利益金額の合計額に百分の二十の割合を乗じて計算した金額を加算した金額を法人税の額とする法人税の付加税であつて、欠損法人の場合であつても該当する利益があれば納めなければならないもので、清算確定申告において清算所得が存しない場合であつても、予納法人税として還付されることのないものなのである。

すなわち、租税特別措置法六三条のいわゆる土地重課税は、法人に帰属する土地の譲渡そのものに着目し、その譲渡利益額に一定率(二〇パーセント)を乗じて算出される租税であつて、清算確定申告において清算所得が存しない場合であつてもなお納付しなければならないものであり、右の譲渡所得金額の計算に際しても、法人自身に帰属する所得が加算されたり、あるいは費用が差し引かれたりするものではない分離課税的租税であるから、同税は、まさに前記最高裁判決の指摘する「各個の財産それぞれからの収益そのものに対して課せられる租税」或いは、「管理上当然その経費と認められる公租」であり、本件法人税は財団債権に該当すること明らかと言わねばならない。

3  結論

以上述べたとおり、本件法人税は、財団債権に該当するものであるが、破産手続中は、被告がその支払いを拒む限り、国税徴収法に基づく滞納処分ができないため、本件法人税額である金八六万二三〇〇円及びこれに対する国税通則法六〇条二項に基づく延滞税として昭和五六年六月二日から同年七月一日まで年7.3パーセントの、同月二日から支払いずみに至るまで年14.6パーセントの各割合による金員の支払いを求める。

二  被告の本案前の主張

1  被告は、昭和五六年八月一九日、本件法人税の弁済が破産法四七条二号但書所定の財団債権の弁済にあたるものと思料し、右弁済が財団債権の承認を包含するので、破産裁判所に対し、破産法一九七条、一九八条二項の規定により弁済許可を申請したところ、破産裁判所は、昭和五八年三月二九日、「右破産管財人申請の法人税および延滞税は、破産法四七条各号に規定する財団債権のいずれにも該当しないので、これが弁済を許可することはできない」との決定をなした。

右決定に対し、被告および利害関係者である原告のいずれからも法定の一週間の抗告期間内に即時抗告がなく、右決定は確定した。

よつて、原告の本訴請求は、本件法人税が財団債権にあたらないとした右確定決定の既判力に牴触し、却下を免れないものである。

2  仮に、右のとおりでないとしても、破産裁判所において本件法人税が財団債権にあたらないとして弁済不許可決定をなし、右決定が確定している以上、破産法一六一条の規定により破産裁判所の監督に属する被告は、本件法人税を弁済する権限を有せず、結局、原告の本訴請求は当事者適格なき被告を相手方とした不適法な訴であり却下を免れないものである。

3  仮に、本件法人税が財団債権にあたるとしても、財団債権者は破産財団所属の財産に対して強制執行をなしえないものと解する(石原辰次郎著・破産法和議法実務総攪七四頁)。最高裁昭和四五年七月一六日第一小法廷判決(民集二四巻七号八七九頁)は、財団債権による滞納処分のみならず財団債権による強制執行をもなしえないことを明らかにしたものであるから、右最高裁判決が単に財団債権による滞納処分のみを禁じたものであると即断することはできず、滞納処分ができないことから、これに代る強制執行をなさんとして、給付訴訟を提起することもまた許されないといわなければならない。そうすると、このような債権については、右最高裁判決が指摘するとおり、国税徴収法の定めるところにより交付要求をすることができるにとどまるのである。

よつて、強制執行をなし得ない請求債権たる本件法人税に基づき、給付訴訟を提起し、給付判決を求めることは、法の容認せざるところであるから、本件訴訟は訴訟要件を欠く不適法な訴として速やかに却下さるべきである。

4  仮に、本件法人税が財団債権にあたるとしても、訴状の請求の趣旨からは請求債権が財団債権であるのか否かは不明である。即ち、破産財団に対する財産上の請求権で破産債権でないものが直ちに財団債権であるというわけではなく、破産宣告後の原因に基づいて生じた財産上の請求権のなかには財団債権にも破産債権にも該当しないものがあるのである。例えば、破産法五七条は、手形取引の安全を期するために、為替手形の支払人または予備支払人が、振出人または裏書人に対する破産宣告を知らないで引受または支払をなしたときには、それによつて生じた請求権は破産宣告後に生じた請求権であるにも拘らず特にこれを破産債権であるとしているから、仮に、右の者が破産宣告を知つて引受または支払をなしたとすると、その者の有する請求権は財団債権にもあたらず、かと言つて破産債権にもあたらないということになる(弘文堂・条解会社更生法中四七三頁九行目以下)。従つて、仮に、訴状請求の趣旨と同旨の主文の給付判決がなされたとした場合においても、破産法二四四条所定の債権確定の訴の判決の主文の方式をとらないことから、当該請求債権たる本件法人税が破産債権でないことは了解しうるとしても、かかる請求債権が財団債権であるのかあるいは「財団債権でも破産債権でもないもの」であるのかという点は給付判決の主文のみからは判断できないのである。

よつて、右給付判決によつては、当該請求債権が、破産財団に対する他の債権者の請求権といかなる優先、劣後の関係にあるのか判断できず、殊に破産手続によらなければ権利行使が認められない破産債権との優劣が不明であるから、給付判決が言渡されても判決内容どおりの効力を生ずるに由なく、結局、かかる給付判決を求める訴訟は、訴の利益を欠くこととなり不適法却下を免れない。

三  右被告の主張に対する原告の反論

1  被告の本案前の主張1について

破産法は、破産管財人が一〇万円以上の価額を有する財団債権を承認する行為をなすについて、監査委員が置かれている場合にはその同意を(同法一九七条一三号)、また、監査委員が置かれていない場合は債権者集会の決議を(同法一九八条二項本文)それぞれ要するとしているが、右の両規定は、同法一九七条各号に列挙された破産管財人の各行為がいずれも破産財団に重大な影響を及ぼすものであることに鑑み、これを破産財団の増減等に重大な利害関係を有する破産債権者に監視させようとの趣旨で同債権者らの利益のために規定されたものと解される。そして、同号列挙の各事項についての破産財団側の態度は、監査委員の同意等に拘束された破産管財人の行為によつて始めて相手方に表明されるものであり、したがつて、相手方は、監査委員の同意或いは債権者集会の決議が得られなかつたこと自体を捉えて不服を申し立てることは許されておらず、外部に表われた破産管財人の行為の当不当を争いうるに過ぎない。したがつて、この点に関する破産管財人と監査委員或いは債権者集会の関係は、単に破産機関内部の関係に留まるものである。

本件で問題となつている裁判所の許可は、監査委員を置かない破産の場合であつて、かつ、債権者集会の決議を得る余裕のない急迫な場合に右決議に代わつてなされる(同法一九八条二項但書)臨時の代替的補完的なものに過ぎないのであるから、これが前述の監査委員の同意や債権者集会の決議を超えた性質・効力を有するものとは到底解しえず、結局、破産裁判所の破産管財人に対する許可は、破産機関の内部関係に過ぎないものというべきである。

以上のとおり、本件不許可決定は、単に破産機関の内部手続の問題であり、その手続の当事者でない原告に対して効力を生ずるものではないから、本件不許可決定を踏まえてなされた被告の本件法人税等を財団債権として承認せず、交付要求にも応じない旨の外部的行為に対して不服を有する原告がその当否を争い、訴訟によつてその解決を求めうることは明らかである。

2  同2について

破産管財人は、破産財団の内部関係においては、破産裁判所や債権者集会の決議等の制限を受けつつも、対外的には破産財団の代表機関として同財団の管理処分権(破産法七条)及び同財団に関する訴訟の当事者適格(同法一六二条)を一手に有しているのであるから、前述のとおり、原告が本件法人税等の財団債権性を訴訟で争いうる限り、被告がその訴訟の被告適格を有することは明白である。本件不許可決定は、前記のとおり破産機関の内部手続の問題にとどまるものであり、これが本訴請求に関して同法一六二条に規定する破産管財人の当事者適格をも否定するものではないといわねばならない。

3  同3について

現在の給付の訴えは、給付請求権とその履行期到来が主張されておれば、原則として訴えの利益があるのであり、現段階において強制執行をなし得ない等の障害が存することによつて給付訴訟の訴えの利益が否定されることはないのである。

したがつて、仮に、被告が主張するように、財団債権に基づく強制執行が許されないとしても、同債権について給付訴訟を提起しうることは明らかであり、被告の主張は失当というべきである。

4  同4について

金銭債権を訴訟物とする給付訴訟において請求の趣旨で債権の特定ができないのは当然のことであり、その故にこそ金銭または代替物の一定の数量の給付を求める訴えにおいては、同一の当事者間に同一内容の給付義務が重視して認められる可能性があるから、請求の趣旨の記載と相まつて、これを請求の原因によつて補足すれば足りるとされているのであり、このことを理由に給付訴訟が不適法となることはあり得ないのである。

すなわち、本訴において、原告が本件法人税は財団債権に該当するとしてその支払を求めていることは請求の趣旨及び請求の原因の記載によつて明らかとなつているのであり、被告もこれを否認して争うのであるから、本訴判決においては本件法人税が財団債権であるか否かの判断が示されることは必然であり、このような判決について被告が主張するような判断ができない結果となることはあり得ない。

四  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因1は認める。

2  同2は争う。

3  被告の主張

(一) 破産法人においては、破産制度の存在理由からして、清算所得が生じることはおよそ法の予定しないところであり、偶々奇跡的に清算所得が生ずることがあつても、当該清算所得に対し法人税が課されることはないと解する。従つて、破産法人には、清算所得ないし清算確定申告を前提とする清算事業年度予納申告に係る法人税を納付する義務もまた存しないと解する。以下にその理由を述べる。

法は、清算所得について清算所得に対する法人税を課し(五条)、右法人税の課税標準は、解散による清算所得の金額とし(九二条)右解散による清算所得の金額は、その残余財産の価額からその解散の時における資本等の金額と利益積立金額等の合計額を控除した金額とする(九三条)旨定めている。

しかして、会社は破産によつて解散するが、破産による解散の場合には、他の事由による解散の場合とは異り、清算手続は行なわれず裁判所の監督の下に破産手続が行なわれる。

従つて、法に定める清算中の所得に係る予納申告(一〇二条)、清算確定申告(一〇四条)等清算中の内国普通法人等が対象となる清算所得に関する諸規定は、破産法人である内国普通法人等には、これらが清算中の法人ではないことからして、そもそも適用されないと言わなければならない。

即ち、法人については債務超過が破産原因として掲げられていることから明らかなように、破産法人に残余財産が生じる事態は法の予定しないところであり、現実にもかかる事態は奇跡的であり生じようもなく、このような残余財産(解散によつて最終的に実現した資本の剰余)の存在を前提とする清算所得に対する法人税の概念は、およそ破産法人に関する限りはいかにもふさわしからぬものといえよう。

実務的にも、原告の見解を認めて、破産法人が、清算確定申告による納付法人税の予納として、清算中の各事業年度の終了のたびに清算中の所得(損益計算方式)に係る予納申告をなして法人税を国に納付し、かかる法人税納付後の破産財団を配当財源として最後配当をなし、破産法第一六八条所定の破産管財人による任務終了による債権者集会への計算報告の時点ころを残余財産の確定の日として清算確定申告(純財産計算方式)をなした場合を想定しても、結局、債務超過であれば清算所得は生じないため納付すべき税額はないことに帰し、予納申告による予納額の過納分の還付を最終配当後に受けることとなり、いたずらに破産手続を甚だ繁雑にすることとなるのである。

なお、そもそも、破産管財人が、破産宣告後に、清算中の所得に係る予納申告、清算確定申告をする義務は存しないと解する。即ち、破産手続は、滞納処分、強制執行、担保権の実行としての競売、企業担保権の実行手続と並んで公権力が介入して債務の履行を実現する強制換価手続(国税通則法第二条第一〇号)の一種であり、破産管財人は滞納処分を執行する行政機関その他の者、裁判所、執行官と並んで執行機関と規定されている(国税徴収法第二条第一三号)から、かかる強制換価手続における執行機関の立場と申告義務者の立場が矛盾することは自ずから明らかであろう。また、破産宣告により破産財団の管理処分権は破産管財人に専属するから、破産会社の代表取締役が破産財団の増減に密接に関連する申告をなしえないことも明らかである。

以上のとおり、破産会社において清算確定申告等をなすべき者は誰かという点から考察しても、清算所得に対する法の規定が破産法人に適用されないことが窺えるのである。

(二) 仮に、破産法人に対し法人税が課されることがあるとしても、被告は次のとおり主張する。

破産宣告後の原因に基づく租税債権については、破産法四七条二号但書により「破産財団ニ関シテ生シタルモノ」に限定して財団債権にしており、その趣旨は、破産財団の管理上の当然の経費であつて破産債権者にとつて共益的な支出と認められ、従つて、破産債権者が共同で負担するのが当然であるとされるもののみに限定したからであるといわれている。この点について、原告は、「破産宣告後には破産者に破産財団に属しないいわゆる自由財産が生じるため、破産者に対して生ずる公租公課もその発生原因に応じて破産財団と自由財産とに峻別して負担させるべきであるという理由から、財団債権に該当する公租公課を破産財団に関して生じたるものに限定したものと解される」として、前記最高裁四三年一〇月八日判決を引用している。

しかし、前記最高裁判決は、「破産財団ニ関シテ生シタル請求権」とは、破産財団を構成する各個の財産の所有の事実に基づいて課せられ、あるいはそれら各個の財産のそれぞれからの収益そのものに対して課せられる租税その他破産財団の管理上当然その経費と認められる公租公課のごときを指し、破産宣告後の原因に基づく破産者の所得に課せられた所得税はこれにあたらない旨の判旨をなしており、原告のいう破産財団と自由財産間の租税負担峻別の見解については何ら言及していないのである。

破産法の立案者中の主要メンバーである加藤正治博士は、「破産財団に関して生ずる物的税と破産者自身に課する人的税とに区別し、物的税に限り財団債権とし、人的税は財団債権たるを得ずとした」とされるが、破産宣告後に生じる租税債権の財団債権適格性については、右の物的税、人的税の区別基準が適当であると異料する(斉藤秀夫外二名編・注解破産法一六五頁以下)。右区別基準によれば、現行法上物的税にあたるのは、固定資産税、自動車税、鉱区税、物品税、登録免許税、有価証券取引税等であり、法人税は物的税にはあたらないこととなる。即ち、法人税は、法人が収入を得ている事実に着目し、法人の所得に担税力を求めて課されるものであり、所得税と同様に、所得を支払能力の指標とし、総合的担税力を対象とした人的税といえるし、包括的に事業年度間の益金から損金を控除した金額を対象とした量的な面の担税力に着目しているものであり、税率についても資本金(一億円以下か否か)および所得金額(年八〇〇万円以下か否か)の大小または法人の種類(協同組合等や公益法人等は税率が軽減されている)に応じて差異が設けられているのである(税務大学校論叢12村松圭・破産法にいう財団債権とされる租税の範囲について一五二頁以下)。

なお、原告は、いわゆる土地重課税が分離課税的租税であるというが、複数の土地の譲渡がなされ一方に譲渡益が生じ、他方に譲渡損が生じた場合は損益が通算され、結局、土地譲渡による総合的担税力が着目されることとなるし、また、国または地方公共団体等に対する土地譲渡は土地譲渡益特別課税の適用除外とされて土地重課税が課税されない場合もあるし、さらに、預貯金の利子や受取配当などについて源泉徴収されている所得税額は控除されて法人税額は算出されるのであり、いわゆる重課税についても人的色彩が濃いことに変りはない。

本件においては、別紙不動産目録一記載の物件うち土地部分の譲渡益が九〇四万五〇〇〇円であり、同目録二記載の物件の譲渡損が三一七万九一六五円であり、結局、損益を通算して金五八六万五〇〇〇円(一〇〇〇円未満切捨)の譲渡益が生じ、これに二〇パーセントの税率をかけて土地譲渡税額一一七万三〇〇〇円を算出し、既に源泉徴収された預金利子についての所得税額三一万〇六〇九円を控除して納付すべき法人税額八六万二三〇〇円(一〇〇〇円未満切捨)が算出されているのであり右法人税額は、課税客体が何人に属してもその課税に変化がないものともいえないのである。

いずれにしても、いわゆる土地重課税も正確には分離課税ではなく、法人税の一種にすぎないのである。

以上からして、本件法人税は、破産法第四七条第二号但書所定の財団債権には該当せず、その他同条各号のいずれの財団債権にも該当しないものである。

第三  証拠<省略>

理由

一被告の本案前の主張に対する判断

1  主張1について

昭和五六年八月一九日被告において本件法人税の弁済が破産法四七条二号但書の財団債権の弁済にあたるものとして破産裁判所に対し同法一九七条、一九八条二項の規定により弁済許可の申請をしたところ、同裁判所は昭和五八年三月二九日本件法人税は同法四七条各号に規定する財団債権にあたらないとして不許可決定をなし、右決定は確定したこと、以上の事実は弁論の全趣旨に徴し当事者間に争いがない。

しかしながら、破産裁判所のなす破産法一九八条二項但書の許可及び不許可の決定はいずれも破産裁判所と破産管財人の内部関係を律するものにすぎず、外部である行為の相手方に対して効力を生じないものと解するのが相当であるから、相手方は右決定に対し不服申立ができないのであるが、それ故、右決定が仮に既判力を有するに至つても、その効果を相手方たる原告に及ぼすことはできないものといわねばならない。したがつて、被告の主張1は理由がない。

2  同2について

財団債権者は、破産法四九条により破産管財人に対して財団債権の弁済を請求することができ、破産管財人が右請求を承認しないときは破産管財人を被告として確認又は給付の訴えを提起しうる(同法一六二条)ところ、前記のとおり同法一九八条二項但書の破産裁判所の許可不許可は破産機関の内部関係にとどまるものであるから前記不許可決定が存在するからといつて被告が右訴えにつき当事者適格を有しないとはいえず、したがつて被告の主張2は理由がない。

3  同3について

給付訴訟は実体法上の請求権の存否を確認するという確認的機能をも有するのであつて、現在の給付の訴えにおいては、給付請求権の存在とその履行期の到来があれば訴えの利益が認められ、強制執行をなしうるか否かは訴訟要件とはならないから、被告の主張3も理由がない。

4  同4について

金銭又は代替物の一定の数量の給付を求める訴えにおける訴訟物の特定は、請求の原因と相まつてなせば足りるところ、本件訴訟において原告の請求する債権が財団債権であることは訴状記載の請求の趣旨及び原因から明らかであるから被告の主張4も理由がない。

二本案に対する判断

1  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

2 一般の租税債権は、破産法四七条二号により財団債権とされるが、破産宣告後の原因に基づいて生じた租税債権は、同号但書により「破産財団ニ関シテ生シタルモノ」に限られる。ここに「破産財団ニ関シテ生シタルモノ」とは、破産財団管理のうえで当然支出を要する経費に属し、破産債権者が共益的な支出として共同負担すべきものをいうから、「破産財団を構成する各個の財産の事実に基づいて課せられ、あるいはそれら各個の財産のそれぞれの収益そのものに対して課せられる租税その他破産財団の管理上当然その経費と認められる公租公課のごときを指すものと解するのを相当とする。」(最判昭四三年一〇月八日民集二二巻一〇号二〇九三頁)。

3 ところで、法人の各事業年度の所得に対して法人税を課することにしているが、解散した清算中の法人については、清算中に生じた清算事業年度の所得に対する法人税を課さず、清算所得についてこれを課することにしている(法六条、五条)。ただし、清算による残余財産の確定までに長期間を要する場合があること等から、当該清算事業年度の所得を解散していない法人の所得とみなして計算した法人税の額を申告して、これを納付(予納)するよう義務付けている(予納法人税)(法一〇二条一項二号、一〇五条)。

被告は、会社が破産によつて解散した場合は右諸規定は適用されないと主張するが、会社は破産によつて解散し(商法四〇四条一号、九四条五号)、普通の清算手続の代りに厳格な清算手続ともいうべき破産手続が行なわれ、解散した法人は破産の目的の範囲内ではなお存続するものとみなされる(破産法四条)のであつて、清算手続の一種である破産手続に法の前記各条の適用を除外する理由は認められないから、右被告の主張は採用できない。

なお、被告は、破産管財人には清算中の所得にかかる予納申告、清算確定申告をする義務は存しないと主張するが、破産財団の管理処分権は破産管財人が有する(破産法七条)のであるから納税申告義務もまた破産管財人が有するのは当然である。

4 したがつて、前記予納法人税は、破産法人といえども所得がある以上破産終結まで各清算事業年度ごとに当然納付しなければならない租税であり、かつ右予納法人税の基礎となつた所得はすべて破産財団に帰属し、他に予納法人税を支出する破産法人の自由財産というものはないのであるから、破産財団に属する財産からこれを支出せざるを得ない。そうすると、右予納法人税の基礎となつた所得は結局のところ破産債権者の配当資金に充てられるものであり、これに対して課せられる予納法人税は、その発生原因が破産債権者に利益をもたらすものと考えられるからその支出は破産手続遂行のために必要な、破産債権者に共益的な支出として前述した破産財団の管理上当然その経費と認められる公租公課にあたるといわなければならない。

5 前記昭和四三年一〇月八日の最高裁判決は個人破産の場合について破産宣告後の原因に基づく所得税は破産財団に関して生じた請求権とは認めがたいとしている。

しかし、このことは同じく所得を対象とするとはいえ、法人税の場合にはあてはまらない。すなわち個人破産の場合には、破産宣告後に破産者が得た所得及び取得財産は、破産者の自由財産となるので少なくとも、自由財産による破産者の所得にかかる所得税は、財団債権とはならない理である。しかし、当時の所得税制は総合課税方式をとり、破産財団に属する財産による所得と個人破産者の自由財産による所得とに分離して課税することをせず、あくまで破産者個人の総所得金額を課税標準にする仕組みになつていた。このことのために個人破産者に対する所得税債権が破産財団に関して生じた請求権にあたらないとされたのである。

ところが、法人破産の場合には、法人は破産によつて解散し、その後は破産の目的の範囲内だけでその存続が法律上許されているにすぎないから、破産法人の自由財産というものが生じる余地は全くない。この点で個人破産の場合と異なるのである。

したがつて、破産者の自由財産があることを前提として、総合課税方式を理由に破産宣告後の原因に基づく所得税の財団債権性を否定した前記判例は、破産法人の法人税の場合には妥当しないのである。

6 更に、本件法人税は租税特別措置法六三条のいわゆる土地重課税に該当し、破産財団に属する土地の譲渡利益金額に対して、その一〇〇分の二〇を乗じた額を本来の法人税額に加算して課税されたもので、破産財団を構成する各個の財産のそれぞれの収益そのものに対して課される租税であり、破産財団に関して生じたものにあたるものである。

被告は、複数の土地の譲渡がなされ、一方に譲渡益が生じ、他方に譲渡損が生じた場合は損益が通算され(本件もその一例)、結局土地譲渡による総合的担税力が着目されるのであつて土地重課税は人的色彩が濃いとして財団債権にあたらないと主張するが、土地重課税は前記のとおり土地の譲渡益に対して課税されるのであり、破産財団を構成する各個の財産のそれぞれからの収益そのもの(各個の財産が一筆ごとの土地を指すものでないことは「それぞれ」の文言があることから明らかである。)に対して課される租税であり、その発生原因が破産債権者の利益に帰するから財団債権とみざるをえないのであつて、この点についての被告の主張は失当である。

四結び

よつて、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(土屋重雄 最上侃二 林秀文)

不動産目録<省略>

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